SYNC

—なぜ自然はシンクロしたがるのか—

スティーヴン・ストロガッツ

(蔵本由紀監修,長尾力訳,早川書店,2005年)

SYNC

: The Emerging Science of Spontaneous Order

Steven Strogatz, Hyperion Books,2003

無数のホタルが完璧にシンクロして光を点滅させる情景をあなたは想像できるであろうか?これはマレーシアのマングローブの森で実際に観察される現象であり、このSYNCという本の表紙も飾っている。20数年も前のことであるが、ノーバート・ウィーナーの『サイバネティクス』を読んだとき、わたしはこの現象の存在を初めて知った。ウィナーはこのような「同期現象」を宇宙に偏在する特性として捉えており、ホタル以外にも様々な例が紹介されていた。

本書もこの同調現象について、多くの例を用いながら、高度な内容をわかりやすく解説している。ホタルの発光、心臓ペースメーカー細胞の同調、脳波の周波数引き込み、サーカディアンリズム(概日周期)などの生物的システムからはじまり、ホイヘンスの振り子、レーザー発光、惑星間の運動の同調などの物理的システムに展開し、交流発電機の同調や橋のゆれなど工学的システムも含んでいる。さらに、著者自身による研究の成果として、スモールワールド/スケールフリーネットワークにおける同期現象も取り上げられ、これはヒトの同期現象としての流行や交通渋滞や拍手など社会的システムの領域に展開される。そして最終的にはヒトの意識と脳の同期現象の関連が考察されるのである。

著者は非線形科学分野の第一人者であるスティーヴン・ストロガッツ氏である。しかも、本書では研究成果だけでなく研究に携わる人々の活動も生き生きと描写されており、非常に身近に著者との共感を得ることができる。これも同期現象の一種の応用であろうか。しかも、本書の翻訳は同調現象の理論的研究の第一線で活躍されている蔵本由紀氏によって監修されている。この分野に関心を持つすべての方々に薦めたい一冊である。

なお補足ではあるが、このような同調現象は人間のコミュニケーションにおいても不可欠な役割を担っていると考えられている。これこそがいわゆる「身体性」や「社会性」の基盤にあるとわれわれは予想する。本COEプロジェクトの協調行動グループでは、このような観点からも、人間とエージェントのインタラクションに関する研究に取り組んでいるのである。

(三宅美博:COE-ABSSS協調行動グループ)